鉄瓶・南部鉄器のいろは
鉄瓶・南部鉄器の歴史
南部鉄器とは、岩手県盛岡市・奥州市で作られる物をいいます。
そのルーツは二つに分かれます。
盛岡の鋳物の始まりは、不来方(こずかた)と呼ばれていた盛岡の地に、(蒲生氏郷の勧めで)南部氏が城を構えた慶長年間(17世紀初期)といわれています。
南部藩の特産品として、茶の湯釜や鉄瓶などは、古くからの地域ブランド「南部」と称されてきました。
もうひとつの奥州市では、更に古く、平安後期(12世紀初期)に藤原清衡が、近江国から鋳物師を招き始まったといわれ、江戸時代に仙台藩の庇護を受け発展してきました。
両地区とも、茶釜・鉄瓶・鉄鍋・鉄釜・梵鐘・・・と色々な物を製造し、幕末には大砲まで作ったそうです。
昭和20年以降、全国各地で鋳物生活用品が製造され、すべて「南部鉄器」と称して販売される混乱がありました。
現在は、昭和49年に制定された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」による指定を第一期に受けて、“伝統的工芸品”となり、両地区での生産品を南部鉄器と称しています。
熟練職人の手による80余の行程を経て製造される実用性と芸術性豊かな南部鉄器は、身近に置いて使いこなし、長く受け継いでいきたいものです。
参考:2007年3月現在“伝統的工芸品”として指定されているのは、全国に210品目あります。
鉄瓶・南部鉄器の製造方法
●大量生産と手づくりの違い
鉄を溶かす作業は、キューポラと呼ばれる炉で行われています。
キューポラで溶かされた鉄は「湯」と呼ばれます。
キューポラに対し、昔ながらの小型の炉は甑(こしき)といい、組み立て式の炉のため、注湯の時に組み立てて使います。
●生型・焼型について
溶けた鉄=湯を流し込む鋳型には、ふたつのタイプがあります。砂に水と凝固剤を混ぜ、それを押し固めてつくる生型と、作った型を高温で焼いて固める焼型です。
生型は効率的なつくり方で大量生産向け、焼型は細かい模様を刻めるというメリットがあり手づくり向けと分類されます。
南部鉄器 鉄瓶の選び方
鉄瓶の種類は数多くございます。
ここでは、鉄瓶を選ぶ指標をかんたんにまとめております。
ご参考に頂ければと存じます。
●製造方法
鉄瓶の製造方法は、大きく2種類に分けられます。
製造における全ての工程を職人によって行われる「焼型」。
砂に水と凝固剤を混ぜて、プレス機で押し固めて型を造る「生型」。
「焼型」技法は400年以上前と古くから伝えられた技術です。
鉄の厚さを薄目に造られておりますので、「生型」技法で造られた鉄瓶より比較的軽量になっております。
文様も職人が1つ1つ丁寧に描いておりますので、趣の有る仕上りにあっております。
「生型」技法は、機械によって型を造るため、「焼型」より価格が抑えられおります。
「焼型」より製品の厚みが大きいので、IH調理器でご使用頂くのに適しております。
型を造るのは機械ですが、仕上げの工程は職人によって行われます。
急須・鉄鍋・風鈴などは、「生型」によって作られます。
●鉄瓶内部の錆止め処理方法
鉄瓶の内部は古来より伝わる伝統技法「釜焼き」という、約900度の炭火で焼くことによりサビ止めの酸化皮膜を形成させる技法。
鉄鍋等に用いられる黒焼付仕上がございます。
「焼型」鉄瓶は、全て「釜焼き」を施しており、「生型」鉄瓶も高価な商品は「釜焼き」を施しております。
黒焼付仕上の鉄瓶は「釜焼き」の工程を省いて製造されております。
どちらもお湯を沸かした時に鉄分が溶出致します。
鉄瓶の内部は、素焼き(無塗装)・漆焼付仕上・黒焼付仕上がございます。
お湯を沸かした時の鉄分の溶出量は、微量ですが素焼き(無塗装)が一番多いです。
漆焼付仕上・黒焼付仕上も、鉄肌に酸素を通しますので、沸かしたお湯に鉄分が含まれております。
素焼き(無塗装)
漆焼付仕上
黒焼付仕上
●外側の塗装の種類
鉄瓶の外側は、漆焼付塗装・カシュー焼付仕上・黒焼付仕上がございます。
漆は高価な代物のため、「焼型」鉄瓶など価格の高い鉄瓶に使用されております。
カシュー塗料とはカシューナッツから抽出した天然樹脂塗料です。
天然成分で漆に非常に近い性質を持っています。
「生型」鉄瓶の多くにカシュー塗装を用いております。
漆に近い性質のため、漆焼付塗装に近い趣のある仕上りになります。
黒焼付塗装は、鉄鍋等の調理器具に用いられる技法です。
独特の光沢感がございます。
●容量
鉄瓶は1L以下の小さなものから、2L以上の大きいものまでございます。
ご使用用途によってお選びください。
●その他注意事項
近年、安価な中国産鉄瓶が出回っております。
弊社で扱っております商品は南部鉄器の老舗工房岩鋳様をはじめ、岩手県水沢地区の工房様で造られている商品でございます。
ご安心してお選びください。
焼型鉄瓶一覧を見る
生型鉄瓶一覧を見る
鉄瓶のサビについて
●鉄瓶のサビについて
鉄瓶は、鉄という素材上必ずサビが発生します。
しかし、サビ = 故障という訳ではございません。
内部にサビが発生しても、沸かしたお湯が赤くならなければ、そのままご使用可能です。
●使用後3ヶ月の鉄瓶の内部
新品から使用後1~3ヶ月位で内部が赤くなっていきます。
もちろん、このまま問題なくご使用可能です。
使い続けていく内に、内部に湯垢が付き白くなってきます。
●使用後約1年の鉄瓶の内部
1年ほど使い続けると、内部に湯垢が付き白くなります。
この白い湯垢は、水に含まれるカルシウム等の成分が付着して付きます。
湯垢が付くことにより、内側をコーティングして錆びにくくするため、擦って落とさないでください。
日々使用することにより、内部が変化していく様子をお楽しみください。
※水源によって、湯垢の付方が異なります。
●沸かしたお湯が赤くなる場合
沸かしたお湯が赤くなる場合は、下記の作業を行ってください。
①鉄瓶に水を少し入れ、亀の子タワシでサビをこすります。
※金属タワシは使用しないでください。
②よくすすぎます。
③煎茶の出がらしをお茶パックに入れたものを用意します。
④鉄瓶に水を八分目ほど入れて、③を20分ほど煮詰めます。
⑤火を止めてそのまま7~8時間おいておきます。
⑥真っ黒な水となりますが、これが鉄分とお茶からでるタンニンと化合した色です。
⑦このタンニンがサビをパックするように覆いかぶさりサビの進行を防ぎます。
⑧ ④~⑥をもう一度繰り返します。
●鉄瓶の穴の修理について
弊社で扱っておりますメーカーでは、現在鉄瓶の穴の修理は承っておりません。
手づくり鉄瓶につきましては、肉厚を非常に薄く造っておりますため、200VIH調理器で強火で加熱すると穴が開く可能性がございます。
手づくり鉄瓶は、必ず直火の中火以下で加熱してご使用ください。
鉄瓶のお湯は美味しい
鉄瓶で水道水を沸かすと、カルキ臭が抑えられて、まろやかで美味しくなります。
鉄瓶・鉄鍋でお湯を沸かすと、鉄イオン(2価鉄)が溶出します。
鉄はイオン化すると2価鉄(Fe 2+)と3価鉄(Fe 3+)の2種類に分けられます。2価鉄は身体に吸収されやすく、3価鉄は身体に吸収されにくいといわれています。
鉄瓶・鉄鍋などから溶出する鉄イオンは2価鉄です。酸性の調味料(酢・しょうゆ・味噌・ケチャップ・・・)を用いたり、長時間煮込むお料理では、鉄分がたくさん摂取できます。
(鉄器からの溶融する鉄分だけに頼る訳にはいきません。やはり、鉄分を豊富に含む食品を併せて摂るようにしましょう。
南部鉄器とIH調理器
南部鉄器の素材の鉄はIH電磁調理器に最も適した金属です。
一般社団法人日本電機工業会の定める規格に準拠した底部のサイズ12cm-26cmの商品に「IH対応」と表記しておりますが、その他のサイズの鉄器にも熱を通すことは可能です。
底部径6cmの鉄瓶
底部径27.5cmの鉄鍋
上記の商品はIHの規格12cm-26cmのサイズから外れておりますので「IH対応」の表記はしておりませんが、100V/200V IH調理器での反応を確認しております。
機種によっては反応しない場合もございますので、お手持ちの規格外の鍋で通電してみるなど、ご使用になられている機種をご確認ください。
また、商品によって「100V/200V IH対応」や「100V IH対応」と記載しております。
200VのIH調理器はハイパワーなため、「100V/200V IH対応」の商品は底部を厚く頑丈に造られております。
200VIH対応品でも強火で加熱すると割れる可能性がございますので、中火程度でご使用ください。
「100V IH対応」の鉄瓶・鉄鍋は、200VIH対応品に比べて若干底部がうすく作られております。
そのため、200VIHで強火でご使用いただくと、底部が変形・割れる可能性があるので、200VIHでご使用の場合は中火以下でご使用ください。
100V IHでは強火でお使いいただけます。
・焼型鉄瓶(手造り品)について
焼型と呼ばれる手づくり鉄瓶は、肉厚を薄く作ることにその特徴があります。
そのため 200VIHでのご使用には無理があります。
200VIHでのご使用の場合は、弱火でゆっくりお沸かしいただきますようお願い致します。
鉄瓶と急須の違い
鉄瓶と急須の違いは内部の構造によって変わります。
●急須
急須の内部にはホーロー加工を施しており、光沢がありツルツルとしております。
加熱するとホーローが割れる可能性がございますので、火にかけて湯沸しとしてご使用できません。
お酒のお燗など燗瓶としてご使用頂く場合は、極弱火でご使用ください。
ホーロー加工の急須には下記のようなメリットがございます。
・急須から鉄分が出ないため、鉄分とお茶・お酒の成分が結合せず風味が損なわれません。
・錆を気にせず南部鉄の保熱力で茶葉からじっくり抽出できます。
・水を入れたまま放置できます。
・冷蔵庫に入れてキンキンに冷やしてお酒の器としてもご使用できます。
●鉄瓶
鉄瓶の内部は焼付処理を施しております。
ホーロー加工を施さないことによって、お湯を沸かした時に鉄分が溶出します。
鉄器から溶出する鉄は「二価鉄(ヘム鉄) / Fe2+」という鉄で、身体に吸収されやすい鉄です。
鉄瓶は鉄器を使って鉄分を補給したい方におすすめの商品です。
経済産業大臣指定伝統的工芸品
「伝統的工芸品」とは
・主として日常生活の用に供されるもの
・その製造過程の主要部分が手工業的
・伝統的な技術又は技法により製造されるもの
・伝統的に使用されてきた原材料が主たる原材料として用いられ、製造されるもの
・一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているもの
上記5つの項目を全て満たし、伝統的工芸品産業の振興に関する法律(昭和49年法律第57号、以下「伝産法」という)に基づく経済産業大臣の指定を受けた工芸品のことをいいます。
南部鉄器は焼型鉄瓶が伝統的工芸品の指定を受けています。
1.鋳型造りは、次の技術又は技法によること。
・砂型であること。
・溶湯と接する部分の鋳物砂には、「真土」を用いること。
・鋳型の造型は、「挽き型」又は「込め型」によること。
・「挽き型」による場合には、鋳型の表面に「紋様押し」又は「肌打ち」をすること。
・鋳型の焼成又は乾燥(「肌焼き」を含む。)をすること。
2.鋳物の表面は、漆及び鉄しょうを用いて着色をすること。
3.料理用具として用いられるものにあっては、「金気止め」をすること。
焼型鉄瓶には伝統的工芸品の証「伝統証紙」が付いております。
これは国に指定された「伝統工芸品」を証明するマークです。
デザインは1964年東京オリンピックのシンボルマークを手掛けたグラフィックデザイナー・亀倉雄策氏によるもので、今から約50年前に誕生しました。
シンプルで大胆なデザインは、受け継がれてきた伝統とともに力強く進化し続ける「匠の技」とそれが生み出す「伝統工芸品」を表現しています。
いつまでも古びない確かなものであることを証明しています。
作家作鉄瓶の一覧を見る
南部鉄器の風鈴の音色
南部鉄器の風鈴は「リーン」と高く澄んで涼しげな音色が特徴で、岩手の夏の風景として人々に親しまれてきました。
「残したい日本の音百選」にも選ばれています。
南部鉄器独特の重厚感がありながら洗練された音色をお楽しみください。
♪風鈴の音色はこちらです♪
風鈴一覧を見る
鉄瓶のお湯の黒い粒
鉄瓶でお湯を沸かすと黒い粒・褐色の粒が出てくる場合がございます。
原因1-酸化被膜-
鉄瓶の制作工程で、錆止めを施す「釜焼き」という工程がございます。
「釜焼き」とは出来上がったばかりの鉄瓶を約900度の炭火で焼くことにより、サビ止めの酸化皮膜を形成させる伝統技法です。
特に新品で使い始めの鉄瓶は皮膜が剥げやすくなっている場合があり、お湯を沸かした時にポロっと剥げて黒い粒が出てくる場合がございます。
この酸化皮膜は四酸化三鉄といわれる黒錆で、身体には害は無く、そのままお飲み頂いて問題ございません。
原因2-湯垢-
黒い粒と一緒に褐色の粒も白湯に混じっている時がございます。
これは湯垢です。湯垢は水に含まれるカルシウム等の成分で、鉄瓶を使い続けると内部に湯垢が付き白くなります。
湯垢が付くことにより内側をコーティングして錆びにくくするため、擦って落とさないでください。
カルシウム等の成分なので、そのままお飲み頂いて問題ございません。